親の介護(2)

母の食生活改善は一筋縄ではいかなかった。

 

内科を受診して「エンシュアリキッド」などの栄養補助飲料を処方してもらおうと考えた。

 

たんぱく質、ミネラル、ビタミン、脂肪などの栄養素を効率的に摂取できる栄養補助飲料を利用している高齢者は少なくない。

 

しかし、根っからの病院嫌いである。

 

母には長期にわたってお世話になっている整形外科クリニックがあったのだが、受診はその一択で、必要と思われる内科、耳鼻科、歯科などの他の受診は固く拒否するという、頑固な意思表示があった。

 

その整形外科も、持病の変形性膝関節症の痛みに耐えられないときだけ、注射と鎮痛剤と湿布剤をもらうために受診していたようだ。

 

あの手この手で受診に誘ってみても、

内科は、「どんなに健康でも、無理やり悪いところをみつけるところだ」

 

耳鼻科は、「手術が必要なほど悪くない、このままで生活できている」

 

歯科は、「口の中に異物を入れられるだけでえずく、とても無理」というような屁理屈で、動かざること岩のごとき母の意思である。

 

こちらとしてはあきれ果てて、 (あぁ、そうですか。はいはい、わかりました)と、あきらめざるを得なかった。

 

本人の意思と、介護者の理想とする支援とのギャップ。

 

認知症の進行のはざまで、介護者にとっては取り組み難い時期だろう。

 

とりあえず、しばらくは家族で対処することにして、手っ取り早く、市販の栄養補助飲料を利用した。

 

同時に、味覚障害の改善をねらい市販の亜鉛も服用してもらったのだが、幸いにもどちらも抵抗なく摂取してくれた。

 

母は、私の作った食事を勧めに従って一口食べてはみるものの、露骨に「おいしくない」と拒絶し、目の前から食器を押し出して、相変わらず、白飯と沢庵を要求し続けた。

 

それでも数か月間作り続けていると、一口が二口に、二口が三口にと少しずつ食べられるものが増えていった。

 

同時に「(塩)からい」「かたい」「多い」などと発することが増えていき、それらの言葉は私にとっては安心材料となった。

 

半年ほど経たころだったか、好き嫌いは多いものの、なんとか偏食は治まっていた。

 

≪続く≫

 

※ちなみに亜鉛は、褥瘡(じょくそう)=床ずれにも効果があるようです。気になる方はお医者さんに相談してみてくださいね。

※参考までに、市販の栄養補助飲料の「メイバランス」も、バナナ味など飲みやすいようです。

 

 

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