猫アレルギーではなかった話

ある頃から、夜、布団にもぐり込むと間もなく、体に痒みが襲ってくる日が何度もあった。

 

掻き始めると、掻き終わらないうちに別のところが痒い。

 

そしてすぐに他の部分が痒くなるという繰り返しで、せわしなく手を動かしていた。

 

どこにも発赤や発疹が出てこないのが不思議だった。

 

以前聞いた話に、水虫の痒みに耐えかねて救急車を要請した人がいたらしい。

 

その話を聞いたときに嘲笑していた私も、この頃は笑えなかった。

 

狂おしい気持ちで搔き続けながら、思いを巡らせてみる。

 

浴用せっけんは、これまで愛用してきて特に問題の無いものだ。

 

それに保湿のために、化粧水を、顔につけるついでに体にも塗りつけている。

 

アレルゲンになるようなものを口にしただろうかと考えを巡らせても何も思い当たらない。

 

そもそも私はアレルギー持ちではない、と思う。

 

家ダニ対策で、布団にも掃除機をかけている。

 

とすると、ついに猫アレルギーか。

 

子猫を迎えてから一年以上が経過していた。

 

猫アレルギーの原因は猫の唾液にあるらしいので、通称「モフモフ」に顔をうずめて「猫吸い」なるものを毎日繰り返しているうちに、とうとう発症したのかもしれない。

 

掻きながら、考えを巡らせながら、いつの間にか寝落ちする。

 

そして翌朝目覚めて布団から出るときには、なぜか何事も無かったように治まっている。

 

そういう夜が何度か巡ってきたある日。

 

はたと気がついた!

 

脱兎のごとく布団から飛び出して、寝間着にしているカットソーを脱ぎ捨て、別のシャツに着替えた。

 

そうして再び布団にもぐり込んでジッとうかがうと、やはり、もう痒みは起こらなかった。

 

その、数年間愛用しているカットソーは、恥ずかしいほどヨレヨレに相成った代物だ。

 

「綿混」のその生地は月日と共に薄くなり、一見するとスルッとしなやかになったが、おそらく、徐々に綿の部分が擦り切れて失われ、残った化繊に目に見えない毛羽立ちが起こっていたと推測する。

 

品質表示タグの文字はすでに読み取ることができなかったが、綿は自然にすたれても、簡単には穴も開かないほど丈夫な化繊が残っていたのだ。

 

思い起こせば、症状はほぼ上半身の胴体に起きていたではないか。

 

今回気づくことができたきっかけが二つあった。

 

ひとつは、知人が脛(すね)に化繊アレルギーを発症したことだった。

 

化繊の白ズボンが長靴の中でこすれて、脛に繰り返し刺激をうけ続け、症状が徐々に悪化していき、ジクジクと赤紫色にただれてしまったのだ。

 

もうひとつは、私のUVの手袋にあった。

 

外出時に欠かせない黒い化繊の手袋なのだが、経年劣化のせいで、切り替えになっている甲がわの生地の表面に、汗じみそっくりの白い毛羽立ちが浮き上がるようになったのだ。

 

 

一見落着、やれやれである。

 

痒みの原因が不明のままになっている方がいないとも限らない。

 

これが乳幼児であれば、痒みを訴えることもできず、ぐずるだけだろう。

 

少しでもヒントになれたら幸いである。

 

     ≪終≫

 

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